ショパンのピアノ協奏曲を室内楽版で演奏してみた
先日、友人のピアノリサイタルで、ショパンのピアノ協奏曲第1番を室内楽版で共演しました。
原曲はもちろん、オーケストラとピアノ独奏のために書かれたものです。
今回は、ショパンのピアノ協奏曲第1番を室内楽版で演奏する際の、楽譜の注意ポイントをご紹介。
五重奏?四重奏?六重奏?
ショパンのピアノ協奏曲の室内楽版 と一口に言っても、じつは2バージョンあります。- 六重奏(独奏ピアノ+弦楽五重奏)※ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1、コントラバス1
- 五重奏(独奏ピアノ+弦楽四重奏)※ヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1
どちらも、編曲(アレンジ)された楽譜が出版されています。
検索する時、購入する時は編成を確認しましょう。要注意ですよ~。
六重奏バージョンと五重奏バージョンの大きな違いは、コントラバスが入るか入らないか。
たった1人ですが、コントラバスが有るか無いかで、編曲も随分変わるんです…汗
今回演奏したのは、五重奏バージョン(独奏ピアノ+弦楽四重奏)でした。
十分に考慮しましょう!
- コントラバスが入れられる練習場所の確保
- 日程調整(6人はハードル上がるよ…!)
6人と楽器が入っても息苦しくない+コントラバスが天井に激突しない場所、となると、狭い部屋ではムズカシイ・・・汗
原曲と室内楽版で違うこと
オーケストレーションのことと、実際に演奏してみて気付いたことの2点から、考察してみます。
オーケストレーション(アレンジ)
室内楽版では、原曲では管楽器に割り当てられている音も弦楽器で弾きます。休むヒマがない
ファゴットやホルンの音は、主にヴィオラに割り振られていました。
音域的にも、オーケストラの中での位置づけ(キャラ付け?)からも、納得です。
楽器が違えば当然響きも変わります。
また、残念ながら割愛せざるを得ない音も出てきます。
今回演奏した五重奏バージョンでは、第3楽章で個人的に大好きなファゴットのフレーズ(357小節目から)が割愛されていました…涙
人数から生じる、演奏する時の違い
ピアノ協奏曲をオーケストラ奏者の視点で見ると、ショパンのピアノ協奏曲は、ソリストのやりたいことにオーケストラが寄り添う場面が多い印象を受けます。
チャイコフスキーやラフマニノフの協奏曲のような、ある意味シンフォニックな雰囲気を、ショパンの協奏曲にはそれほど感じません(個人的には)。
音楽に限らない話ですが、大人数が絡んでくる時には、一律に決めておく必要があることや、妥協せざるを得ない部分が出てきますよね。
どんぶり勘定でも全然大丈夫だった田舎のお店が、レジを導入するような・・・。
フルオーケストラでショパンの協奏曲を演奏する時にも、同じようなことが起き得るのです。
ピアニストは表現したいとても繊細なニュアンスを約60人のオーケストラに伝えるのは、物理的・距離的な問題もあって難しい=ソリストが妥協せざるを得なくなる可能性が出る、てな具合。
室内楽版なら、最大でも6人で演奏できます。
少人数なので、 全員がピアニストの呼吸を感じる距離で弾けます 。
つまり、ピアニストの繊細なニュアンスにも対応しやすい=フルオケよりも小回りが利く
というわけです!
ピアニストも弦楽器も。
Kominekによるピアノと弦楽四重奏への編曲版
今回の演奏で使用したのは、Kominekによる編曲版です。2004年出版。
ショパンの楽譜は、ポーランドの国家事業として編纂されたエキエル版(ナショナル・エディション)が、権威ある楽譜のひとつと言われるようになりました。
ピアノ協奏曲第1番は、2台ピアノ版が2001年、オーケストラスコアが2005年に出版されています。
Kominekによる編曲版は、どうやらエキエル版(ナショナル・エディション)には含まれないようです。
Kominek編曲版を譜読みした印象
直感で、「Kominek氏はエキエル版(ナショナル・エディション)のオケスコアを見ていないのでは?」と感じました。
(上記の通り、Kominek編曲版よりも、エキエル版のオケスコアの方が、後に出版されています。)
実際に、旧来の版とエキエル版でオーケストレーションが変わった場所を比べても、
旧来の版を参考にアレンジしたのだなと思える所ばかりでした。
(手元にあった○イレンブルグ日本語版を、旧来の版代表として参照しました)
ただ、ピアノパートには所々「ナショナル・エディションではこうなってますよー」という注釈が入っていました。
ナショナル・エディションの2台ピアノ版は2001年に出版されていますから、そこは確認しているのでしょう。
コントラバスが無いことに起因する問題
Kominek編曲版には、コントラバスが含まれません。
ピアノのバス声部を補強する役割も持っているコントラバスが無いことで、こんな印象を受けました。
低音のぼーんって感じがどうにも足りない気がする。
違和感の正体は、編曲の際に拾っている音でした。
原曲でチェロとコントラバスが同じ音(実音ではオクターヴ違い)を弾いている所は良いのですが(Kominek版でも原曲と同じ音になっている)、その先のチェロとコントラバスで声部が分かれる箇所で、Kominek版はチェロを拾っていることが多いのです。
そのせいで低音の支えが無くなる感じがして、どうにも残念に聴こえてしまっていたのでした。
ためしに、部分的な再アレンジを提案したい
低音のゴリゴリ感が無くなって、私が最も違和感を覚えたのは、2楽章の71小節目の後半でした。
旧来の版のオーケストレーションでは、70~71小節目はこんな感じになっています(アーティキュレーション等は省略。コントラバスは便宜上、実音表記にしています)。
※↑低音を大きめにしてみた
いやあ、低音でゴリゴリぶつかるこの感じがたまらんのですよ♥♥♥
で、Kominek版はこんな感じ。
うーん・・・
どうにもゴツゴツしないっ!!!!!!!っていうかコントラバスは記譜音と実音が1オクターヴ違うのに記譜音そのまま拾うってどゆことですかKominek氏。
そんなわけで、おこがましいとは思いながらも、こんな風なアレンジを提案します。
- 70小節目の後半をチェロからヴィオラに移す
- 71小節目のチェロを丸々1オクターヴ下げる
- 71小節目のヴィオラに、Kominek版で存在を消されたDis音を復活させた
うん、いくぶんマシになる気がする。
ちなみに、エキエル版オケスコアはこんな感じになってます。
地味なミスプリが多い
Kominek版で、アレンジ以外に気になった点は、ミスプリの多さでした。
明らかにミスプリだろうと思ったのは、弦楽器4パート合計で15か所。
見落としもあると思われるので、実際にはもうちょっと多い数字になることでしょう。
また、ピアノソロにも「パデレフスキ版とエキエル版の違いとか、そういうレベルじゃないんじゃないかなー」と思われるミスプリが数か所。
(↑ピアニストは恐らくKominek版で譜読みすることは無いでしょうから、そんなに大きな問題にはならないと思うけど)
実際に演奏する時、次のような所は、オケスコアと照らし合わせて音を確認した方がよさそうです。
- 明らかに響きが変な所
- 原曲と比べてどうにも違和感がある所
ステキな曲が(オケよりは)手軽に演奏できる喜び!!!
と、ここまでKominek版に苦言を呈してきたわけですが(汗)
フルオケよりも六重奏版よりも、演奏するハードルが低くなっている点は、素晴らしいと思います!!!
注:ピアノパート弾くのは、お手軽さ増さない。どうやっても。
室内楽版でショパンのピアノ協奏曲を演奏してみて、改めて曲の魅力に気づくことができました。
なんなら、オーケストラで演奏した時よりも、感動はひとしおだったかも・・・
ソルフェージュの先生、ヴァイオリンの先生、時々オーケストラと室内楽。
ヴァイオリン弾きのソルフェージュ講師はわりと珍しいようです。指導経験は延べ100人以上。茨城県立水戸第三高等学校音楽科、Y. A. ミュージックアカデミー等で指導にあたる。
「音大受験の1科目」としてのソルフェージュではなく、実際の演奏に結び付くもの、音楽をより楽しめるものを目指しています。あらゆる楽器の生徒さんに対応していますが、得意とするのはヴァイオリンをはじめとする弦楽器。ヴァイオリンを学ぶ人に必要かつ不足しがちなことを、自身の実体験をふまえてレッスンしています。
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