日本クラシック音楽コンクール・ヴァイオリン部門予選を審査して感じたこと
「クラコン」の略称でお馴染み、日本クラシック音楽コンクール。今年で34回目だそうです。
8月28日@浦安音楽ホール、ヴァイオリン部門予選を審査させていただきました。
かつての私がクラコン全国大会へ駒を進めるまで(※興味ない方は読み飛ばしてください)
私がクラコンのお世話になってたのは20数年前。むか~しむかしのお話😂
当時は、1つの会場から全国大会へ進める人数に限りがありました。全国大会も1箇所のみ。
その代わり(?)、本選で次点の人が「好演賞」という賞をもらえるシステムでした。
次点なので「全国には行けないけどあと一歩だから来年頑張ってね~」的な立ち位置です😅
私はなんと、2年連続で好演賞でした。高1・高2の頃のおはなし。
1年目は中身がお子ちゃまだったので単純に「やったー🎊ヴァイオリンで初めて賞もらえたから嬉しいな~😆🎻」だったんですが、
2年続けて次点落ち・・・ともなると、流石に、悔しさのほうが勝つようになります。
この1点の差は何?
自問自答の日々。ちょうど高校2年生だったので、こんな風に考えました。
この1点の壁を越えられたら、藝大も夢じゃない!よね!?
その一心で1年間、試行錯誤を繰り返しました。
克服すべき課題を自分なりに考えて、毎日1つ何かしらの収穫があるようにしよう!という気持ちで、ヴァイオリンの練習に取り組むようになりました。こんな感じに。↓
- カール・フレッシュのスケールに、総練習時間の3分の1を割く。
- ドントのエチュード。とある先生の「無理してパガニーニやらなくても・・・」の一言を有難く受け止めた結果、大胆にもパガニーニを放棄。その代わりにドントを頑張ることにした(私パガニーニに強烈な拒否反応してましてね。残念ながら未だに積極的に触手を伸ばす気にならない作曲家第1位殿堂入り)。
- 学校の試験とかで弾く曲(コンチェルト等)
けっこう頑張ってたと思うよ、当時の私。
今ほどコンクールの数が多くなくて(学生コンクールorクラコンという感じだった)、腰を据えてスケールやエチュードに取り組める時間があったのも、大きかったと思います。
1年後、高3で初めて全国大会へコマを進めることができました😀
全国大会は特に何ももらえず終わりました。でも季節は高3の12月。気持ちは完全に大学受験で結果を出すことのほうに向いていたので、別にそれで良かったと思っています。
小学生の審査。雑感
参加者の学年は、1年生から6年生まで満遍なく。
気持ち的には、頑張りを讃えて全員(特に低学年!)満点をあげたいところですが、今後の伸びしろを考えてちょっと控えめな点数になりました。
他の先生方より少々厳しめの採点だったかもしれませんが、満点をつけたがために「伸びしろが無い」的な深読みをされても困るしなぁ…と思ったり。点数つけるのムズカシイ💦
無伴奏で弾く難しさ
クラコンは自由曲で参加できます。
この日の小学生部門も、発表会の定番曲から大人顔負けの曲まで、バラエティに富んだプログラム!
エチュードや無伴奏曲を弾かれた方もいました。
無伴奏での演奏には、一人で音楽を作り上げるという、独特の難しさがあります。舞台上で何か起こっても、自分一人で切り抜けなきゃいけない怖さ。
自分は小学生の時に人前で無伴奏で弾いたことがあっただろうか?仮にあったとして、緊張せずにできたかな?とか考えてみましたが、
えー、たぶん無理です。笑 怖すぎる。100%崩壊。
そんなこんなで、無伴奏曲で参加した小学生の演奏は「果敢な挑戦に拍手!」という気持ちいっぱいに聴かせていただきました😊
でも冷静に考えたら、ピアノの発表会って(コンクールでも)、舞台上は基本的に一人。ヴァイオリンはだいたいピアニストが一緒。
舞台上で完全に一人でどうにかする経験という意味では、ピアノとヴァイオリンで違いがあるな…とも感じました。
中学生・高校生・大学生の審査。バッハの難しさ・響き・調弦など
中学生・高校生・大学生は、全日本学生音楽コンクール(学生音コン)や日本音楽コンクール(日本音コン)の課題を弾かれる方が多かったです。
下稽古や最終調整にちょうど良い時期だったからかな🎵
伸びしろの大きい演奏から、既に完成されてるんじゃないかと思える演奏まであり、コンクールでは無く演奏会を聴いている気分になりました🎻😊
バッハのヴァイオリン曲を演奏する難しさ・点数を分けたポイント
歴史ある学生音コンと日本音コンは、クラコンと異なり、課題曲が決まっています。初期のクラコンは「自由曲で参加できる」のがウリだったように、コンクールは課題曲があるのが普通?のはず。今や課題曲があるコンクールのほうが少数派・・・かな?(個人の感想です)
学生音コンも日本音コンもバッハが課題曲に入っているので、下稽古としてクラコンでバッハを演奏された方が大勢いらっしゃいました。
そう、今回の審査で採点を難しいと感じたのは、
何と言ってもバッハ!!!
まず、バッハのヴァイオリン曲を演奏するのはなぜ難しいか?私なりに考察してみます。
- バッハの時代のヴァイオリンと、現代のヴァイオリンは、いろいろ違う(詳しくはWikipediaを見てください)
- ポリフォニー音楽(超絶シンプルに言うと、立体的な音楽ということ)を単旋律楽器で演奏する
- 演奏解釈に、バロック的なアプローチとモダン的なアプローチ両方の可能性がある
- その人の音楽の素養が問われる(和声、舞曲のスタイル、楽曲の形式etc.)
- はったり・ごまかしが効かない
4と5は、バッハだけに限らないですね。
要するに、楽器の歴史とか、音楽に対する幅広い知識まで問われてるってことだね。
ただ楽器を操る練習してるだけで攻略するのは難しい作曲家、とも言える。
基本的には皆さんとてもよく弾いておられ、技術的な問題を感じた方はいませんでした。さすが学生音コンや日本音コンが視野に入る方、という感じ。
でもバッハに関しては、音楽的に理解して演奏している方、部分的にでも音楽的な理解を試みた形跡がみられた方、音楽系のお勉強よりもヴァイオリン弾く方が好きかな?という方など、いろいろな方がいたような気がしました。
いち審査員の独り言
ここからは個人の見解です。
学生音コンや日本音コンに挑戦できる技術的レベルに達しているのなら、それぞれの舞曲の様式感を研究して演奏に活かしてみては…?と感じた方が多かったです。
研究の取っ掛かりとしては、たとえば、
- 「サラバンド」って何だろう?
- 「シチリアーノ」って何?
- どんなステップなんだろう?
- 何拍目に重みがあるの?
最初はこんな感じの、小さなトピックで良いと思います。
お手軽に調べる方法としては、
- 曲の解説文を読んでみる
- 楽典の本に何か書いてないか調べてみる
- 同じ舞曲名の違う曲を聴いてみる
- 実際に踊っている動画を探してみる
などがありますね。
そして、ポリフォニック(立体的)に聴かせるのは難しいです。
たった4弦の楽器で一人二役どころか三役、四役もするのだから当然っちゃ当然なのですが。苦笑
私も今コンクールでバッハを弾くことになったら・・・考えただけで恐ろしい😱逃げられるものなら逃げます😭
でも、
「うーん、この人わかってるのかなぁ…不安🤔」と思わせる演奏を、
「この人は曲をわかってる(わかろうとしてる)んだな」と思わせる演奏に近づけるのは非常に簡単。(実行するかどうかは本人次第)
それは、
シンプルでよいので、楽曲分析をすること。
- ここはどんな和音なのか?
- フーガのテーマがどこに出てくるか?
この2つを理解してるだけでも、演奏が全く変わります。
(仮に音に現れてなくても)理解して演奏しているかどうか?あるいは、理解しようとしているか?
その辺が点数を分けるポイントになってくるように感じました。
あとは、普段からヴァイオリン以外の音楽(バッハならオルガンとか)に親しんでいるかどうかも、もしかしたら関係あるかもしれないですね。音楽的な引き出しの多さに繋がるので。
いろいろ書いてみましたが、特にバッハに関しては(審査される先生の)好みは避けて通れない気がするので、難しいです😂。
※このブログは私が好き勝手に発信しているメディアです。今コンクールに参加している方が万が一この記事に辿り着いてしまってたら…習っている先生のご意見を優先してくださいね🍀
響きや和声に対する感覚
バッハのみならず他の曲にも言えることですが、
- 和音の中の音程の取り方
- 響きを聴くこと
この2点に研究の余地がありそうだなと感じた方が、けっこういらっしゃったように思います。
ヴァイオリンは、単旋律っぽく見えるけどじつは分散和音!というケースがとても多いんです。バッハとかバッハとかバッハとかモーツァルトとかバッハとか。世のヴァイオリン曲だいたいそう(ってことにしとこう)。
つまり、和音の中での音程の取り方を研究すると、
様々な場面で応用がきき、対応力を上げられる!
というロジックです。
中には
絶対音的には合ってるのかもしれないけど、ここが和音で構成されてる認識はできてるかな?響きを聴けてるかな?
と感じてしまう演奏もあった気が・・・。浦安音楽ホールはよく響くので、余計に傷が目立つように感じてしまいました。
自分で音程を作る楽器ゆえの難しさであり、お悩みでもありますが、そのぶん研究のやり甲斐もあるポイントです。
頑張ってください!
調弦は大切。練習の時から、落ち着いてこまめに調弦しよう
響きと大いに関係あるのが、調弦。
いろんなコンクール審査員の方のブログやSNSを通じて「調弦を聴けば上手かそうでもないかわかる」という話は耳にしていましたが、
本当にそうなんだなぁと、改めて感じました。
- 大きすぎる音
- f字孔を客席に向けて堂々と
- 調弦したわりにピアノと合ってない
- 舞台袖で最終確認してきた??してないよね??と思うぐらい長時間かけてる(そして結局合ってない)
調弦が合って無ければ、キレイで正確な音程は生まれません。
重音を一切使わない曲なら・・・不可能とは言い切れない?かな?笑
早い話、調弦を軽視してる人は、日頃の成果を発揮するとかそういう次元に立てないってこと。
普段の練習で正確な音程をとれてる保証が無いのだから。
舞台に上がったら急にドキドキしてきたなぁ!演奏時間の制限があるから、ちゃっちゃと調弦終わらせて早く弾き始めなくちゃ・・・
うぅ、こんな時に限ってペグがうまく回らない・・・えぇいこれでいいや!なんとかなるっしょ!
その気持ち、よくわかります!昔の自分もそうでした。
でも損をするのは自分ですよ。
緊張すると、日頃の行動が思わぬ形で露呈しちゃったりしますよね。
調弦も同じです。
普段の練習の時から、神経使ってキレイに調弦しましょう。
しつこいようですが、調弦が音程の良し悪しに直結するのは、言うまでもありません。
調弦で完全5度の美しさを味わおう
和声感とも関係しますが、弦楽器を弾く人が手軽にできる耳のトレーニングがあります。
それは、
調弦のときに、完全5度の響きを味わって聴くこと。
チューナーと睨めっこするのではなく、自分の耳を使います。
美しくハモる完全5度は、オクターヴと同じくらい、わかりやすいです。
チューナーで合わせる正確さ?も否定しませんが、調弦の完全5度やオクターヴ(=完全8度)のような「完全」と名のつく響きの美しさは忘れずに練習してほしいと思います。
これは年齢プロアマ問わず、弦楽器を弾く人共通の課題ですね。
もちろん私も😅
ソルフェージュの先生、ヴァイオリンの先生、時々オーケストラと室内楽。
ヴァイオリン弾きのソルフェージュ講師はわりと珍しいようです。指導経験は延べ100人以上。茨城県立水戸第三高等学校音楽科、Y. A. ミュージックアカデミー等で指導にあたる。
「音大受験の1科目」としてのソルフェージュではなく、実際の演奏に結び付くもの、音楽をより楽しめるものを目指しています。あらゆる楽器の生徒さんに対応していますが、得意とするのはヴァイオリンをはじめとする弦楽器。ヴァイオリンを学ぶ人に必要かつ不足しがちなことを、自身の実体験をふまえてレッスンしています。
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